【N高】学校HP掲載の「私学教員ユニオンの記者会見について」に対する私学ユニオン見解

6月12日に学校HPに掲載された「私学教員ユニオンの記者会見について」という記事に対して、私たち私学教員ユニオンの考えを述べたいと思います。

1、長時間労働について

 まず、組合員の1人(A)が1か月で25日間の勤務(休日出勤3日)、記録上は66時間の時間外労働をしていたことは、労基署および学校側も認めています。しかしながら、勤怠システムで自動的に1時間が計上されている昼休憩も、以下で詳しく述べるように実際はレポート採点や担任業務に追われ実質的にとれていません。それを加味し、時間外労働は91時間(66時間+25時間)と「組合側の主張」として記者会見で私たちは報告をしました。

 休憩が労働基準法で定める1日1時間取れていなかったことは労働基準監督署からも認定され、学校側は労基法34条違反(休憩未取得)の是正勧告を受けている訳ですから、休憩時間が取れていないことを踏まえた主張をすることは事実と大きく異なることではないと考えています。

 また、現行法上の国が定める時間外労働の上限規制は、原則月45時間となっています。ですので、学校側も認める月66時間の時間外労働でも国の基準から見て多いと言えますし、国が定める「過労死認定基準」は月80時間ですので、それに近い「過酷な労働」をしているのは紛れもない事実です。

※厚労省HP引用

2、振替休日、サービス残業、未払い賃金について

 A教員は確かに年間で見れば振替休日を取得していますが、それは相対的にスクーリングが落ち着く年度末の2〜3月に集中的に取らされる形となっています。それまでは、休日出勤を行っても振替休日が取れないままに累積し、過重労働に陥っていました。

 なお、2,3月も担任する生徒約150名の成績処理などが1日刻みにスケジュールが組まれているため、業務全体としてはせわしない中で振休消化のために休まされるのが実態でした。そのため、この時期には主事などの役職者は休日でもSlackを投稿するなど「サービス残業」をしていました。学校の「サービス残業を禁止しています。」という言い分は事実とは異なります。(また、この証拠は第1回の団体交渉で学校に提出済みです。)

 振替休日は原則当該月内に消化しなければなりません。また、消化できていなければ125%割増の賃金を支払う必要があります。しかし、それを一方的な解釈で25%分しか支払わず、100%分(振替休日)を年度末まで貯めさせていたのは労基法第24条違反(賃金の未払い) として是正勧告を学校は受けています。

 学校側は「振替休日を別の月に取らせてプラマイゼロなので未払い賃金はなく問題ないだろう」と言いたいようですが、このようなやり方は社会的に通用しません。労働基準法というのは、使用者が守る「最低限のルール」を定めた法律です。学校側がコンプライアンス違反へ真摯に向き合うことを私たちは望んでいます。

3、スクーリング期間の業務や担任数について

 ではなぜA教員を含む多くの教員がこういった過重労働に陥っていたのかというと、やはりその多くはスクーリング時の業務過多と担任数の過多に他ならないと考えます。

 この点については、N高のシステムについて学外の方にはイメージしづらい部分があると思いますので、少し詳しめにご説明したいと思います。

 スクーリング期間はネットコース教員が授業を対面で行っています。スクーリングは毎年5月~翌3月まで年中実施しており、7月~翌1月頃にそのピークが来ます。この期間はほぼ毎日授業が入っており(土日に授業が入ることもあります)、学校が宣伝する「年5日のスクーリング」という表現は、まるで教員が年5日しか授業をしないと思わせるミスリーディング以外の何物でもないです。教員からすると、約2万名の生徒(通学コース・バンタン高等学院など含む)のスクーリングを担当するため、ネットコース教員は1年中ほぼ毎日授業があるのです。

 そして、このスクーリング期間にはA教員含め多くの教員が、時間割における1コマ目から定時過ぎまでの全ての授業コマへ授業が入っていることが多く、その合間や授業後にレポート採点や担任業務をしていたため、昼休憩も取れず、夜遅くまで仕事をしなければ終わらない業務量でした。昨年度の授業数に関しては全日制の教員と比べても同じか、それ以上のコマ数の授業を担当しました。具体的には以下のような状況です。

【A教員のスクーリング時の典型的な1日の流れ】

8:30 出社

8:30 ~ 9:00 各教室の換気、空気清浄機の水の入れ替え、生徒受け入れ準備など

9:00 ~ 9:30 朝会、授業準備、メール・Slackの返信

9:30 ~ 10:00 生徒が登校。消毒→体温検査→教室案内など生徒誘導

10:00 ~ 12:20 授業(私はフルコマで10分休憩はすべて教室移動などに費やす)

12:20 ~ 13:00 昼休憩(実際はご飯を食べながらレポート採点、生徒対応)

 ※受付や校舎内外の巡回の当番になる日もある。

13:00 ~ 18:40 授業(午前と同じくフルコマ)

18:40 ~ 19:20 生徒の下校指導、教室の清掃・消毒、終礼

19:20 ~    担任業務(担任生徒・保護者の方への連絡、面談、レポート採点)

 ※日によりますが「定時は20時!」が合言葉になるほどの時もあり、退勤が21時過ぎることもある(12時間超の労働)。レポート採点は1教員あたり年約1万件に及ぶ場合もあります。

※画像はある教員の1週間のスケジュールです。この画像に載っているのはスクーリング業務のみであり、これ以外の時間(19時以降)に担任業務やレポート採点が入ります。

 このような「過酷な状況」というのは決して私学教員ユニオンで改善に取り組む組合員のみが感じていることではありません。非組合員のN高教員へアンケートをとったところ、30名から回答があり、およそ4/5もの教員が担任数の削減とスクーリング時の過重労働の是正を求めていました。

 学校側は「150人を担任することは生徒・保護者からのアンケートによって高い満足度を得ているために適切と考える」としていますが、こちらは上記のような過酷な状況下でも現場で教員1人1人が生徒と真摯に向き合った結果です。

 しかし、その裏側で多くの教員が疲弊していき、2020年度の東京綾瀬キャンパスでは新入職25名のうち3名が年度途中に体調不良で退職し、年度切り替え時に2名が退職で「新入職の5人に1人が体調不良で辞める職場」でした。

 このような疲弊した現場を顧みず、教員の声を「高い評価を得ているから問題ない」と一蹴する学校側の姿勢にはこれからも強く異議を唱えていきます。私たちは生徒や保護者の方1人1人にじっくり向き合い、より良い教育環境を実現できるよう求めています。

4、学校側の形式的な「改善」の取り組み

 確かに学校側はこの一件を受けて「振替休日を月内に取るように」、「休憩は必ず1時間とるように」と教員に指導しています。しかし、業務量の削減や教員数の大幅な増加などの抜本的な業務改善は見られないため、休憩を取ることは出来ないばかりか、むしろただルールが増えただけというのが現場教員の正直な感想です。このような「形式的に法律さえ守ればいい」というスタンスは随所に見られ、教員の給与は時給1100円を切る最低賃金ぎりぎりレベルであったり、固定残業代制度も国の定める時間外労働の上限規制である月45時間に微妙に届かない40時間に設定されています。

5、学校側の団体交渉への対応について

 最後に、団体交渉をめぐって、組合側が文章の返事を全くしていない、事実の根拠を提示しないなどの不誠実な対応をしているかように学校は主張していますが、こちらも事実と異なりますので反論します。

(1)団体交渉までの学校側の不誠実な対応について

 まず、私たちが団体交渉を学校へ申し入れたのは3月18日ですが、団体交渉の日程候補の回答が来るまで2週間もかかり、実際に団体交渉が開催できたのは5月2日と1ヶ月半も先となりました。仮に企業取引において、アポイントの日程候補を2週間も出さないということは常識的に考えられるでしょうか。

 また、労働時間記録などの既存資料の開示も3月18日から求めていましたが、開示されるまでに約1ヶ月もかかりました。すでに学内にある資料の開示になぜ1ヶ月もかかるのか、隠蔽等を疑わせるような対応で理解ができませんでした。

 労働組合からの団体交渉の申し入れに対しては労働組合法上「誠実な対応」が義務付けられています。当初から学校側が私たちを軽視し、不誠実な対応を続けていたことは皆さんに知っていただきたいです。

(2)団体交渉の参加者について

 また、5月2日に第1回団体交渉を行い、同月30日に第2回団体交渉を行う取り決めをしました。組合側は、第1回団体交渉にて学校側と約束した同月10日に、主張内容をまとめた第2回団体交渉要求書を送付しました。学校側は回答書送付は26日までにと話していたにも関わらず、26日になっても連絡は一切来ず(約束を守れない場合は自ら連絡するのが常識かと思います)、団体交渉の前日の29日の19時に回答書を送付してきました。事前に双方の主張を検討し充実した団体交渉を開催するために余裕をもって回答期日を約束していたにも関わらず、ここでも不誠実な対応が継続していました。

 さらに、第二回団体交渉開催にあたって、学校側は第一回団体交渉の時には応じていたにも関わらず、団体交渉に参加する私たちの組合員全員の氏名と所属などの個人情報を公開しなければ団交に応じないという一方的な条件を突きつけてきました。私たちは誰でも一人から加入できる個人加盟型の労働組合(ユニオン)なので、N高以外の組合員も当然おり、各使用者との団体交渉等も皆で参加し力を合わせて取り組んでいます。私たちは組合員の名前や所属等は個人情報でありN高がその情報をどのように扱うかも不明であったため、特別な必要性がない限り貴法人には公開できないことや個人情報を開示する合理的な理由の提示を求めました。また、労働組合の組合員の情報を収集すること自体が組合の勢力の把握や活動に介入することになり労働組合法違反の可能性が出てくることです。

 最終的に、第二回団体交渉を予定していた5月30日は、学校側が開催条件を譲らず事実上の団体交渉拒否(これも労働組合法違反の可能性が生じます)となってしまい、開催ができませんでした。以上のように、私たちが自身の主張に固執したのではなく、学校側こそが継続的に不誠実な対応を続けてきていた上に、一方的な主張を第二回団体交渉直前に私たちに要求し交渉自体が不成立になってしまったというのが事実関係として正確です。

(3)組合が返信をしない、具体的な根拠を示さないなどの主張について

 学校側は「当学園では、もし問題となる事実があれば速やかに是正するので教えて欲しい旨を私学教員ユニオンに対して第1回の団体交渉で伝えております。しかしながら、明確な事実を示していただけていない状況です。」としていますが、そもそも3月18日に送付している第1回団体交渉要求書や5月10日に送付している第2回団体交渉要求書の内容の中で具体的な事実を私たちは主張しています。また、第1回団体交渉では、教員複数名が労働問題の事実を伝えていますし、例えば組合側が長時間労働の証拠として、23時以降のSlack投稿や、休日にも関わらずSlackを投稿しているなどの証拠も提出しています。さらには、学校側が管理する学内資料やデータ(例えば、労働時間記録や上記の深夜にやりとりされているSlackの履歴等)からも、私たちが主張する労働問題を学校側が把握することは可能です。しかし、第1回団体交渉で調査すると学校が言った内容の調査結果はその後全く共有されず、具体的な解決策の提示もない不誠実な回答書が5月29日に来ました。

 以上のように、私たちは以前から学校へ反論し、具体的な根拠を示しています。自らが問題と向き合う姿勢がない一方で、今になって私たちに明確な事実を示さないなどと主張するのは理解できません。

(4)記者会見は労働組合の正当な権利

 学園は「メディアを通じて事実と異なる宣伝だけをするという姿勢には疑問を抱かざるをえません。 」と述べていますが、このような一連の学校側の不誠実な姿勢があったため、私たちはこれでは問題は解決しないと思い、11日の記者会見を行うことを決めました。記者会見などの宣伝活動は、労働組合法で定められた「団体行動権」の行使となり正当な権利です。そして、当然ですが私たちは事実しか記者会見で述べていません。

 私たちも団体交渉実現に向けた話し合いを望んでいます。組合としては、現場の声を真摯に聞き入れ、教員が生徒に対して全力で向き合える環境を一緒に作れることを期待しています。また、通信制高校の最大手となっているN高の労働環境を改善することは、N高だけではなく、他の私立や公立学校の労働環境の問題も改善するきっかけになると考えています。

以上