【N高】9/2(木)に行われた来年度の運営に関する発表「N’th Day」についての見解

角川ドワンゴ学園は9/2(木)の19:00~より来年度の運営に関する発表を自社が運営するニコニコ動画で「N’th Day」にて発表した。

そこではN高、S高に次ぐ「ネットの中学校」のN中の拡充を宣言すると共に、N高などの運営体制、生徒サポートについても触れられていた。

私は現在もNS高(ネットコース)で働いている教員であるが、来年度の運営体制について率直な感想を当ブログ記事で述べていきたい。

1,複数メンター制 ~責任者なき教育~

 N高、S高、N中(以下総称して「N高」)では来年度より「複数メンター制」を導入する。これまでは「担任」という1人の生徒に1人の教員がついて、生徒と日々コミュニケーションを取りながら、生徒が単位を修得し、卒業、進路実現をサポートする教員がついていた。その担任制度を廃止して、新たに導入されるのが複数メンター制である。

 上記の担任制度とは違い、1人の生徒に複数の「メンター」(助言者・指導者)がつく。この複数メンター制度によってN高の教育が良くなるのか、生徒のためになるのかが重要なのであるが、私は複数メンター制によってN高の教育の質が上がるとは考えられない。いや、正直に言うとイメージが湧かないから、生徒にとってのメリットを想像できていないだけかもしれない。私はネットコースで教員をしているため、以下ではネットコースにおける現在の運用を基に複数メンター制を導入した場合のことを想定していく。

 まず、知ってほしいのはN高ネットコースで現在行われている「チームサポート」である。これは担任以外の生徒にも電話して、複数の教員の目線で生徒をサポートするという複数メンター制の先駆けとなるものである。確かに、担任とそりが合わない場合のケアや、複数の教員・大人と接することで生徒たちの知見が広がるというメリットはある。

 しかし、実際の運用では「6人の教員で900人の生徒に電話をする」ため、1人の生徒に取れる時間は多くても20-30分程度である。そのため、自己紹介やアイスブレイク、ちょっとした進路相談など当たり障りのない話をして終わりというのが現状である。正直、生徒の感想は「よく分からない先生と、ちょっと話をした」というだけではないかと危惧している。そして、チームサポートは3か月に1度のため、また3か月後には初めての教員から20分程度当たり障りのない会話をして終了するだけである。

 複数メンター制でも、当たり障りのない会話が繰り返されるだけと想定される。現在のチームサポートは、担任を中心にチームサポートの意義を生徒に説明し、生徒にとって学びのある時間になるように現場で試行錯誤している。これは「この生徒の教育的責任は担任である自分にある」という意識があるからに他ならない。前述のように当たり障りのない会話になってしまうケースが多い中でも、なんとかその生徒にとって意味のある時間にしようと考える担任がいるからこそ、チームサポートは効果を発揮するのだと考える。

 複数メンター制では、この中心となる教員がいなくなる。そのため、「この生徒は自分が責任を持って、進級・卒業、進路実現へのサポートをする」という気持ちをもって生徒に接する教員がいなくなってしまうのではないか。前述したように人数比は「6人のメンターで900人の生徒」が下限である。1メンターあたり200人で、6人で1200人ということも充分に考えられる。果たして、その人数の中で生徒1人1人の状況を把握し、生徒に悩みがあった時に迅速に時間を作れるのだろうか。生徒のことを真剣に考えることが出来るだろか。実際に働いている身からすると相当難しいだろうということだけに留めておく。TAをネットコースでも活用して1人のメンターが抱える生徒数を減らそうという動きもあるが、TAは大学生のアルバイトのため、制度上、責任を負いきれない部分や温度感の統一が出来ない可能性もある。現場教員としては、正規の教職員を増やすことで教員の負担削減を学校側はすべきと考える。

 また、生徒から見ても確かにいろんな人から電話が来るようになったが、いざという時に誰に相談したり、悩みを打ち明ければいいのだろうか。もちろん、「複数のメンターの中から相性の良いメンターを選べる」ということも考えられるが、もし私が生徒だとしても、数回しか話したことがない人が何人いたとしてもその人たちに相談しようとは思えない。単純接触効果とも言われるが、どんな内容だとしてもやはり回数・時間はそのまま信頼関係に結びつく。お互い話を繰り返すことでお互いの個性がわかり「この人になら話してみようかな」という気持ちが芽生えるのではないだろうか。そうした回数と時間をかけて作られる信頼関係がないまま月日だけが過ぎてしまうのではないか、生徒はいつまでも核心的な話が出来ずに月日が過ぎてしまうのではないかと危惧している。

2,メンターチームと授業(スクーリング)チームの二分化 ~教員免許は何のため?~

 複数メンター制を導入するにあたり、N高では生徒と電話などでコミュニケーションを取るメンターチームと、単位認定に必要な授業(スクーリング)を担当するスクーリングチームに教員が二分されることが決定した。

 その際の教員向け説明会でも「スクーリングは教員免許を持っていないと出来ない。だからスクーリングチームは教員免許を持っている人のみになります。ただ、免許を持っている人はたくさんいるので余った人はメンターチームに行くかもしれない。」という非常に遺憾な発言をしているのだが、N高ではそのぐらい教員免許を軽視している。(別記事:【N高】「一連の報道に関する、角川ドワンゴ学園の教員の働き方についての説明会」(記者会見)に対する私学ユニオン見解の「6、おわりに」))

 スクーリングチームになると4日間1セットのスクーリングを年中行うことになる。この4日間1セットが終わると生徒が入れ替わり、また新たな生徒に向けて同じ授業をする。今年度までは担任業務と並行して当番制でスクーリングを担当していたため、「今日はスクーリングの日!授業頑張ろう!」と新鮮な気持ちで授業に臨めた。この当番制の状態でも私は昨年だけで同じ授業を各科目50回ずつはした。もしスクーリングチームになって毎日同じ授業を繰り返すだけの日々となると正直、その気持ちを保てる自信はない。

 また、メンターチームには教員免許を持っていない人も多数所属する予定である。その生徒たちの単位認定・成績処理は誰が行うのか。もちろん、教員免許を所持している教員である。生徒の単位・卒業に関わるスクーリングやレポート採点を雑用のように扱い「これは教員免許持ってる人がやって」と押し付ける姿勢に現場は憤慨している。

 N高への就職を考えている教員免許保持者の方がこの記事を読んでいるとしたら、「自分は何のために教員免許を取得したのか」を改めて考えてから、N高への就職を決心して欲しい。

3,おわりに ~現場とのコミュニケーション?~

 以上が、来年度のN高運営(主にネットコース)に関する私見である。最後に社内の教員の地位の低さ、身分保障のなさを記載する。

 6/29にN高は労基法違反に関する記者会見を開いた。その時に私学教員ユニオンN高支部が指摘する問題に対して奥平校長は「現場とのコミュニケーション不足が大きな原因と考える。」とし、現場教員と話せていないことが、現場教員に大きな不満を抱かせてしまったと話した。

 そして9/2にN’th Dayで来年度の発表が外部に大々的にされたが、私たち内部の教員が上記のことを伝達されたのはその前日、9/1である。もちろん、チームを二分することや複数メンター制が教員・生徒にとって効果的でありそうかなどについての現場アンケートも一切行われていない。

 特に2に挙げた「メンターチームとスクーリングチームの二分化」は教員にとって大きな問題である。生徒と話すのが好きで教員になった人もいれば、授業が好きで教員になった人もいる(私はその両方をバランス良くしたい派である)。そのため、恐る恐る「教員免許取得者はスクーリングチームに優先的になるのでしょうか。また、どちらのチームに所属するかの希望アンケートは取るのでしょうか。」という質問を教員がしたところ、先ほどの「余ったらメンターチームへ」という発言のみで希望をとるアンケートの有無については返答がされなかった。 

 私たちN高教員(職員)はジョブローテーションという名目で学園に無条件の人事異動権を掌握されている。転居を伴う異動や教員以外の職務になることも拒否することはできない。「引っ越しするか、仕事をやめるか」「教員を続けるためには会社を辞めなければいけない」と常に考えながら仕事をしている。日々、その不安を抱えているところに更に上記の件が発生したのである。

 N高は日々、新しいことに取り組んでいる。それ自体はとても良いことだと考える。しかし、私たちが1番問題に感じているのは、現場職員の声を一切聞かないことである。日々の業務に関するアンケートなども行われていないし、前述のようにメンターチームとスクーリングチームのどちらを希望するかのアンケートも実施がされなさそうである。奥平校長の発言は何だったのだろうか。

 学校の経営陣も全てに対して正解を選び続けることは出来ないはずであり、また経営陣からは見えていない問題もたくさん現場では見えているはずである。そのため、経営陣が現場の声を聞かずに作った制度が時には現場感覚からすると完全にミスマッチなことも生じる。その時に「上は何も分かっていないよね」「現場の声を聞かないよね」で終わらせるのではなく、「それは違うと思います」と声を上げることが重要なのではないか。私たち労働組合は今後もN高の教育を監視すると共に、その更なる改善に向けて取り組みを進める。